姫路城大天守

大天守1階

平成の修復を期に、これまであった多くの展示物を、西の丸へと移した。なんだか、千姫の羽子板(レプリカ)やダース・ベイダーのデザインの元となった甲冑(うわさ)やらが、大天守から姿を消すと、長年親しんだ風景が遠のきちょっと寂しい気もするが、代わりに、姫路城大天守本来の姿を堪能することができる。

また、解説板は、各階1枚(写真右手)となり、天守内にWi-Fiも設置された。要所にはスマートフォンのアプリを使ったARによる解説を見ることができる。AR解説場所はさほど多くはなく、ビーコンが埋め込まれた文字が光る看板の前に来ると動作する。ARは現地で体感していただくとして、ここでは写真を通して城本来の姿をご紹介したい。
大天守1階平面図

内陣

武者走りに囲まれた内陣。1階には地階と同じサイズで部屋6つ分の仕切りがあるが、そのうち、写真の部屋は、南側3つ分を仕切りを無くし吹き抜けのかたちにしている。もはや大広間といっていい。地階と違って広さを感じるのはこのためだ。北側(写真右手の壁の向こう)に、地階と同じ広さに仕切られた3つの部屋がある。

大天守1階
柱下の耐震補強の箱に、うっかり、すねをぶつけたら痛そうだ、いやそれ以前に耐震補強を覆った箱に、よっこらしゃっと座る人が出てきそう。
天守内の用具掛け
壁の上部には竹で作られた「用具掛け」が見られる。用具掛けは、火縄や鉄砲の弾などを袋に入れてぶら下げていくもので、下から引っ張ったときに取りやすいよう、竹材のものが多い。2階にはL字型の金属製の用具掛けもある。

武者走り

内陣の外側をとりまく廊下で、戦闘時は武士が行き交い、敵兵に射撃をあびせることを目的としている。また、左右に渡している梁の下に肘木を添えて、重さを支えている。大天守では1階のみで見られる光景だ(下写真、天井右手の材)。

障子を開ければ「格子窓」があり、そこに鉄砲をかけて撃つ。また、窓の下に、鉄砲狭間が見える。大天守だけで計約177個の銃眼があるらしい。右手壁の上方(格子窓の上)には小さな「高窓」があり、これは火縄銃の煙を出す機能を果たすそうだ。
大天守1階
内陣の南東隅の柱に残る切り込み番付。建材に付けられたマーキングで「中ノかわ一」と刻まれている(下写真)。これは内陣の1本目を指す。本来は全ての柱にナンバリングがあり(見学途中に確認できる番付は少ないが)、ここで言うと、すぐ西隣の柱は「中ノかわ二」で、内室は7本の柱があるので最も西側にある内陣の柱は「中ノかわ七」となる。つまり、この番付は「一」なのでその基番という訳だ。
姫路城大天守1階の番付
大天守1階で見る東大柱。昭和の大修理の際に、根継されたその境目がここ1階で見ることができる。
大天守1階で見る東大柱

高窓

先の写真の外側。「格子窓」の上に「高窓」がある。高窓の中央には横桟(よこざし)と呼ばれる敵の侵入を防ぐ材が渡されている。こういった横に渡すケースをタイプ別にいうと、与力窓という。もっとも、与力窓は横に材を渡すことで左右の眺望がよくなるという構造だが、姫路城大天守の高窓は、ここから敵を見ることは、まず無いだろうし、用途としては、火縄銃の煙出しと明かりとりと考えるほうがいい。

格子窓と高窓・大天守
姫路城の西の丸、百間廊下にもある「高窓」。
西の丸の高窓

格子窓は鉄板入り

格子窓の断面格子窓の格子は、木々に漆喰が塗られているだけと思いきや、実は内側に鉄板が入っている。八角形の木材を鉄板で覆い、その周りを漆喰で固めるという防火と防備を意識した造りで、容易にノコギリでも切れない。
余談ながら大天守の壁はというと、鉄板は入っていないものの、材木の上に砂漆喰約3cmと白漆喰約4cmの計約7cmの厚みがあるから、こちらも鉄砲を通さない。

さて、格子窓に話を戻して、写真(下)は、西の丸の百間廊下の格子窓で見られた、漆喰が禿げて鉄板が見えている様子。長い時間をかけて、沢山の人たちが無意識に触ったのだろう。ちょうど指のサイズの穴があいていて、鉄板が見えている(現在は百間廊下の格子窓は修復されこの風景は見られない)。
格子窓

大天守1階二の渡櫓への扉

重厚な扉に驚く。大天守1階と二の渡櫓を結ぶ扉で、大天守に入る4つの扉のうちのひとつ。大天守への出入口の扉はすべて二重扉になっていて、この二重目の扉は、外面を鉄板で覆われており、大天守内側からカンヌキがかかるように造られている。くぐり戸は刀を差したままでは通行できないサイズ。

大天守1階二の渡櫓への扉

(文・写真:岡 泰行)

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