写真・監修:岡 泰行/城郭カメラマン

堀越城の歴史と見どころ
堀越城(ほりこしじょう)は、建武3年(1336)、南北朝の争乱の中で宮方の武将・曾我貞光が築いたと伝えられる。貞光は平賀郡岩楯の地に拠り、南朝方として戦っていたが、やがて足利尊氏に呼応して北朝方に転じ、その戦況を伝えた「曾我直光申状」に、堀越および新里に館を築いたことが記されている。これが堀越城の初見である。
その後、室町・戦国期を経て、津軽地方統一をめざした津軽為信が、元亀2年(1571)に石川大仏ヶ鼻城を攻める際、堀越城を軍事拠点として活用した。文禄3年(1594)には、大浦城から本城を堀越城に移し、津軽氏の政庁とした。ここに津軽氏の名を冠した藩政が始まる。
為信はこの地を中心に領内統治を進め、天正18年(1590)に豊臣秀吉から津軽四万五千石の朱印状を得て大名としての地位を確立している。 慶長16年(1611)、二代信牧が高岡城(のちの弘前城)へ本拠を移すと、堀越城は十八年余の藩政の舞台を終え、元和元年(1615)の一国一城令で廃城となった。以後、堀や土塁は残されたが建物は失われ、荒廃が進んだ。安政5年(1858)には11代順承が先祖縁の地として復興を命じ、地域の再興が図られた。
昭和50年〜53年(1975〜78)、国道7号線バイパス工事に伴う発掘調査が実施され、三重の堀跡や竪穴建物跡など多数の遺構が確認された。昭和60年(1985)に国指定史跡となり、平成以降は弘前市教育委員会による保存整備が進められている。整備の完了した区画から順次公開が進められ、令和2年(2020)春には全面開園を迎えた。
堀越城の特徴と構造
堀越城は青森県弘前市堀越字川合・柏印に所在し、白神山地から延びる洪積台地東端、平川と大和沢川の氾濫原に築かれた平城だ。城域はおよそ400m×500mの規模を持ち、平城としては大きな構えであった。
本丸を中心に二の丸・三の丸・外郭が求心的に配置され、本丸は五角形に近い形をしている。土塁と内堀で囲まれ、東門は幅約32mの虎口を備え、木橋で三の丸と連結していた。西門は幅2.4mの狭小な出入口と両側の土塁で防備を固めた。二の丸との間は土橋で結ばれ、全体として静的な均整を保っている。
発掘では三重の堀跡や、武家地と推定される二の丸から竪穴建物跡・掘立柱建物跡・鍛冶炉跡などが確認され、堀の改修や拡張が三時期にわたって行われた痕跡も見られる。基層に細砂や小礫が混じることから、城下は水害を繰り返し受けたことが判明している。これらの遺構は、戦国末から近世初頭にかけての居館型平城の実像をよく伝えている。
参考文献
- 『日本城郭大系2』(新人物往来社)
- 『史跡津軽氏城跡堀越城跡発掘調査総括報告書』報告書(2018弘前市教育委員会)
- 「国指定史跡 津軽氏城跡 堀越城跡」弘前市Webサイト
堀越城の撮影スポット
堀越城は、周囲に日を遮る建物などはなく、平城ゆえに、どの時間帯に訪れても土塁が映える。しっかりその起伏と空間を、迫力あるアングルでカメラに収めたい。
堀越城の写真集
城郭カメラマンが撮影した「お城めぐりFAN LIBRARY」には、堀越城の魅力を映す写真が並ぶ。事前に目にしておけば現地での発見が鮮やかになり、旅の余韻もいっそう深まる。堀越城の周辺史跡を訪ねて
堀越城跡ガイダンス施設
堀越城跡の一角に建つ「堀越城跡ガイダンス施設(旧石戸谷家住宅)」は、江戸時代後期の農家住宅を移築改修した建物で、堀越の歴史と津軽為信ゆかりの資料を展示している。津軽の農家住宅は北側にのみ2階(寝室)を設けている形が主流らしい。この旧石戸谷家住宅でそれが見られる。発掘成果や城下の暮らしをわかりやすく紹介し、映像や模型を通じて城跡全体の構造を体感できる。藩政初期の空気をいまに伝える茅葺屋根の佇まいも魅力で、史跡散策の出発点として多くの来訪者に親しまれている。
周辺の城
堀越城の周辺おすすめ名物料理
堀越城付近にグルメ処は無いのが、ここに来たということは、きっと弘前に行くことだろう。堀越城を訪ねた後は、津軽の味で旅の締めくくりたい。まずは郷土料理の代表・いがめんち。刻んだイカゲソと野菜を揚げた素朴な一品で、噛むほどに旨みが広がる。次に、ホタテの殻を鍋代わりに味噌と卵で煮る貝焼き味噌。津軽の海の恵みを感じる温かな家庭料理だ。そして津軽そば。大豆をつなぎに使い、焼き干し出汁の澄んだ香りと柔らかなのど越しが魅力である。いずれも弘前の食堂や郷土料理店で味わうことができ、歴史と風土が息づく津軽の味覚を堪能できる。
堀越城の観光情報・アクセス
所在地
電話0172-82-1642(弘前市教育委員会 文化財課)
- 公式サイト:「国指定史跡 津軽氏城跡 堀越城跡」(弘前市文化財課)
開館時間
堀越城は散策自由。堀越城跡ガイダンス施設(旧石戸谷家住宅)は、9:00〜16:00。4月17日~11月23日まで開館。
アクセス
鉄道利用
JR奥羽本線、弘前駅から弘南バス大鰐碇ヶ関線で約20分「堀越」降車、徒歩約10分。
マイカー利用
東北自動車道、大鰐・弘前ICから国道7号を市街地方面へ北上し約10分。また、弘前城跡(弘前公園)からは、県道3号「弘前岳鰺ヶ沢線」を経て国道7号へ、石川・大鰐方面へ南下して約20分。無料駐車場有り。
岡 泰行 | 城郭カメラマン [プロフィール]
1996年よりWebサイト「お城めぐりFAN」を運営し、日本の城郭をめぐる旅をライフワークとする。長年にわたる豊富な経験と、城郭写真家としての専門的な視点から、当サイトの記事を監修。その写真と知見は、数々の書籍やメディアでも高く評価されている。

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