日本100名城とは
日本各地には、歴史の舞台となった数多くの城跡が残されている。そうした城郭を文化遺産として正当に評価し、保存と活用を進めるために、2006年、日本城郭協会が「日本100名城」を選定した。この取り組みは、地域の誇りともいえる名城を通して、日本の歴史や文化への理解を深めることを目的としている。
選定の背景と目的
2006年は日本城郭協会の設立40周年にあたる節目であり、それを機に全国の城郭遺産を体系的に紹介する事業が企画された。従来、城跡は観光地として扱われることが多かったが、この選定では、学術的価値や遺構の保存状況を重視し、文化財としての城郭を再評価する意図が込められていた。また、各地の城を訪ね歩くことを通じて、地域の歴史や風土に触れる機会を提供するというねらいもあった。
審査基準の詳細
日本城郭協会は選考委員会を設置し、各都道府県の教育委員会や研究者から推薦された候補城に対して、複数の観点から審査を行った。評価項目は以下の通り。
- 歴史的・学術的価値
- 遺構の残存状況
- 国史跡など文化財としての指定状況
- 地域における代表性
- 現地へのアクセスや整備状況
対象には、現存天守をもつ近世城郭だけでなく、中世の山城や古代の城柵跡なども含まれ、時代・地域・構造のバランスが意識されている。石垣や堀、縄張といった遺構の保存状態が良好な城も高く評価された。
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
制定までの過程と反響
選定作業は、推薦城の整理、選考委員による審査、協会内での最終調整という手続きを経て進められた。地域間の偏りを避け、全国的な視点から100城が選ばれた点も特徴のひとつといえる。発表と同時にスタンプ帳が導入され、「日本100名城スタンプラリー」が始まったことで、城めぐりを楽しむ人々の裾野が広がった。スタンプの設置は、登城記録を形に残す手段として、多くの人に受け入れられている。
続日本100名城とその広がり
最初の100城に続き、2017年には新たに「続日本100名城」が発表された。選定基準は初回と同様で、各地の推薦・審査を経て100城が追加されている。これにより、日本全国で合計200城が「日本城郭協会により選定された名城」として位置づけられ、各地の自治体や関係者が保存・活用に取り組むきっかけとなった。
こうした取り組みは、単なる観光にとどまらず、城を手がかりに地域の歴史や文化に触れる機会を提供している。日本100名城と続日本100名城は、それぞれの時代と土地に生きた人々の営みを、今に伝える存在として全国に広がりを見せている。
見映えと史実の狭間で ─ 100名城をどう見るか
(文:岡 泰行)
日本100名城は、財団法人日本城郭協会によって2006年に選定された。選定基準は、優れた文化財や史跡という残存遺構の観点、また、歴史の舞台として有名なもの、時代を代表するもの、城郭としての歴史を語るのに相応しい城、そして「各都道府県から1城以上5城以内」という価値感が盛り込まれている。
筆者は、城郭カメラマンとして日本の城に関する企画や、出版社から掲載選別の監修の相談を受けることが多い。その時、必ず伝えていることがある。日本100名城や続日本100名城をくくりとして企画すると、行き詰まってしまうことがある。その訳は、ビジュアル的に、一般的にいわゆる「城」らしいものは西日本に多く分布しているため、総じて日本の城はビジュアル面では「西高東低」である認識を最初に持ってもらうことが多い。
そう、「各都道府県から1城以上5城以内」は、協会の全国に対する配慮であって、中にはあくまで絵的にはだが、ちょっとこれは…という城も含まれている。私自身も日本100名城を軸として城めぐりをしていない。出版社の編集者も分け隔てなくできるだけ客観的に伝えようとするのだが、絵でひきつける役割が観光や販売促進に繋がることが多いためか、選別には慎重にならざるを得ないのが実状だ。あくまで絵的な観点からの話だが日本100名城を順に取り上げて的な企画は、途中消滅することが多い。
とはいえ、城をめぐるにあたり、日本100名城というのはひとつの切り口であり、その土地の歴史を知る上では良く、たとえば県史跡を基準にめぐると史跡として見応えを感じる。そうして機能していることに間違いはない。
一方、スタンプはそれらの収集家も城めぐりのユーザーとして取り入れられたことで成功とする解釈があるが、どうにもニュースリリースや展示会などではスタンプばかりが目立ち、本来のその土地の歴史に触れる機会が後回しになっているような気がしてならない。日本は地方ごとに独自の文化があり、それらが目に入ってくると面白く、知的好奇心が刺激される。ぜひ、そういった目で日本100名城を観てほしい。
日本100名城 一覧
北海道・東北地方
- 根室半島チャシ跡群(北海道)
- 五稜郭(北海道)
- 松前城(北海道)
- 弘前城(青森県)
- 根城(青森県)
- 盛岡城(岩手県)
- 多賀城(宮城県)
- 仙台城(宮城県)
- 久保田城(秋田県)
- 山形城(山形県)
- 二本松城(福島県)
- 会津若松城(福島県)
- 白河小峰城(福島県)
関東・甲信越地方
- 水戸城(茨城県)
- 足利氏館(栃木県)
- 箕輪城(群馬県)
- 金山城(群馬県)
- 鉢形城(埼玉県)
- 川越城(埼玉県)
- 佐倉城(千葉県)
- 江戸城(東京都)
- 八王子城(東京都)
- 小田原城(神奈川県)
- 武田氏館(山梨県)
- 甲府城(山梨県)
- 松代城(長野県)
- 上田城(長野県)
- 小諸城(長野県)
- 松本城(長野県)
- 高遠城(長野県)
- 新発田城(新潟県)
- 春日山城(新潟県)
北陸・東海地方
- 高岡城(富山県)
- 七尾城(石川県)
- 金沢城(石川県)
- 丸岡城(福井県)
- 一乗谷城(福井県)
- 岩村城(岐阜県)
- 岐阜城(岐阜県)
- 山中城(静岡県)
- 駿府城(静岡県)
- 掛川城(静岡県)
- 犬山城(愛知県)
- 名古屋城(愛知県)
- 岡崎城(愛知県)
- 長篠城(愛知県)
- 伊賀上野城(三重県)
- 松阪城(三重県)
近畿地方
- 小谷城(滋賀県)
- 彦根城(滋賀県)
- 安土城(滋賀県)
- 観音寺城(滋賀県)
- 二条城(京都府)
- 大阪城(大阪府)
- 千早城(大阪府)
- 竹田城(兵庫県)
- 篠山城(兵庫県)
- 明石城(兵庫県)
- 姫路城(兵庫県)
- 赤穂城(兵庫県)
- 高取城(奈良県)
- 和歌山城(和歌山県)
中国・四国地方
- 鳥取城(鳥取県)
- 松江城(島根県)
- 月山富田城(島根県)
- 津和野城(島根県)
- 津山城(岡山県)
- 備中松山城(岡山県)
- 鬼ノ城(岡山県)
- 岡山城(岡山県)
- 福山城(広島県)
- 郡山城(広島県)
- 広島城(広島県)
- 岩国城(山口県)
- 萩城(山口県)
- 徳島城(徳島県)
- 高松城(香川県)
- 丸亀城(香川県)
- 今治城(愛媛県)
- 湯築城(愛媛県)
- 松山城(愛媛県)
- 大洲城(愛媛県)
- 宇和島城(愛媛県)
- 高知城(高知県)
九州・沖縄地方
- 福岡城(福岡県)
- 大野城(福岡県)
- 名護屋城(佐賀県)
- 吉野ヶ里遺跡(佐賀県)
- 佐賀城(佐賀県)
- 平戸城(長崎県)
- 島原城(長崎県)
- 熊本城(熊本県)
- 人吉城(熊本県)
- 大分府内城(大分県)
- 岡城(大分県)
- 飫肥城(宮崎県)
- 鹿児島城(鹿児島県)
- 今帰仁城(沖縄県)
- 中城城(沖縄県)
- 首里城(沖縄県)
名城を追うだけでは見えてこないものが、その土地にはある。そんな風景の断片を、ひとつずつ拾ってもらえたらと思う。