天守を探して、松山の町へ

松山まで来たのだから、松山城を撮ろう。そう思って城下を歩いてみると、これが案外、天守が見えない。

松山城は、松山平野の中央にそびえる標高132mの勝山に築かれている。山頂には天守を中心とする本壇があり、松山市街を見下ろしている。これほど高い場所にあるのだから、城下のどこからでも見えそうなものだが、実際に歩いてみるとそうでもない。むしろ城山の麓へ近づくほど、天守群は山そのものに隠れてしまう。

城を撮ろうとして城へ近づいたのに、城が見えなくなる。松山城には、そんな不思議なところがある。

以前、大手新聞社の松山支局長を務めていたTさんから、松山城の撮影場所について面白い話を聞いたことがある。Tさんも城好きだった。松山城がよく見える場所を探すとき、まず天守に上がって城下を眺めたという。そこからホテルや建物を探し、「あそこが見えるのなら、向こうからも城が見えるはずだ」と目星をつける。

城下から天守を探すのではない。天守から、撮影場所を探す。城を見る場所を、城の側から探す。なるほど、そんな手があったかと思った。

私自身も松山城では、城から少し離れた場所へ何度もレンズを持って出かけている。ホテルマイステイズ松山も、その一つだ。ここからは勝山の全容がよく見える。まだ「ホテルJALシティ松山」という名称だった頃から撮影しており、平成29年(2017)にホテルマイステイズ松山となってからも、松山城の遠景を撮っている。撮影するなら、12階あたりが絵的には気に入っている。

同じ場所に立っていても、レンズを替えるだけで松山城はまるで別の城のように見える。24mm前後なら城山全体が入り、松山平野から勝山が立ち上がり、その頂に天守群が載っている。ところが400mm前後まで伸ばすと、今度は山頂の本壇がぐっと近づいてくる。高石垣、その上に連なる天守や櫓。山腹を目で追えば、二之丸史跡庭園や登り石垣も見えてくる。

同じ窓から24mmと400mm。城山を撮るのか、本壇を撮るのか。それだけで写真の主役が入れ替わる。午後から夕方、西日を受けた本壇も美しい。

もう少し離れてみよう。松山総合公園へ行くと、松山城天守まで直線で約2.3kmになる。ここでは100mm前後なら、市街地の向こうに勝山を置き、城山全体を捉えることができる。本壇を大きく引き寄せようとすると、800mm前後の超望遠が欲しくなる。

望遠レンズを通して見ると、市街地と城山の距離が圧縮される。家並みの向こうに勝山が立ち、その頂に小さな天守群がある。城内では高石垣や櫓、門ばかりを追いかけていたのに、2.3kmも離れると、いつの間にか松山の町まで一緒に撮っている。こういう松山城も、なかなかいい。

さらに離れて、天山へ向かう。ここまで来ると、松山城天守まで直線で約3kmになる。

余談ながら、この天山には松山城築城にまつわる逸話が残っている。『日本城郭大系』によれば、加藤嘉明が新しい城を築くにあたり、候補となったのは勝山、天山、御幸寺山の三か所だったという。御幸寺山は険しく守りには適しているものの山頂が狭い。天山は広いが低すぎる。その点、勝山は道後平野のほぼ中央にあり、城下町をつくるにも都合がよく、嘉明がもっとも気に入っていたのも勝山だった。

当時、幕府は大名から築城地の申請があっても、第一候補ではなく第二候補を許可する方針だったといわれていた。そこで嘉明は、本命の勝山を第一候補にはせず、第一を天山、第二を勝山、第三を御幸寺山として申請した。すると幕府が許可したのは第二候補の勝山だったという。慶長6年(1601)のことだった。

天山から望む松山城
その天山に立って、いま勝山の松山城へレンズを向ける。そう思うと、ここからの眺めもちょっと違って見えてくる。本壇を大きく捉えるには1000mm以上の超望遠が欲しい。これほど距離があると日中は空気の揺らぎも気になってくるので、できれば早朝を狙いたい。北を向いて撮るため、城の背後に劇的な雲を置きやすい場所でもない。それでも、天山から勝山へ1000mmのレンズを向けてみる。それだけでも、ここまで来た甲斐がある。

一方、もっと気軽に松山城を眺められる場所もある。いよてつ髙島屋の屋上だ。ここからは本壇をほぼ真南から望むことができ、200mm前後の望遠レンズが使いやすい。ホテルマイステイズ松山や松山総合公園とは方角が違うため、天守群の重なり方も変わる。城を見るだけなら、屋上の大観覧車「くるりん」に乗ってみるのも面白い。観覧車が上がるにつれて、ビルの向こうから城山が現れ、市街地と本壇の位置関係も少しずつ変わっていく。

こうして松山城を追いかけていると、城の写真は、城へ近づけばよいというものでもないことに気づく。城から800m、1.7km、2.3km、3kmと離れ、レンズも24mmの広角から、200mm、400mm、800mm、ついには1000mmを超える超望遠まで。距離とレンズを変えるたびに、松山城の見え方も変わっていく。

松山城へ行ったら、天守に上がって市街地を眺める人は多いと思う。そのとき、城下に目を凝らしてみるのもいい。あのホテルからは、どう見えるだろう。あの丘なら、天守と城山を一緒に撮れるだろうか。そう考え始めると、天守から眺める松山の町が、そのまま次の撮影地を探す地図になってくる。

今回「お城めぐりFAN」の松山城ページを大幅に見直した。天守や本壇、登り石垣などの見どころに加え、城内の撮影ポイント、今回紹介した城外からの遠景スポットについても、天守までの距離や焦点距離、撮影に向く時間帯とともにまとめている。

文・写真=岡 泰行