田辺城

戦国の騒乱が、丹後の地にも影を落とした。天正10年（1582）、本能寺の変で、細川藤孝は明智光秀に味方せず家督を嫡男忠興にゆずり隠居し、幽斎と称した。この時、信長の許可を得て宮津城を築城していたが、新たに田辺城を築き隠居城とした。

丹後国は、古くは室町時代に足利氏一門の一色氏が守護として治めた地であった。しかし天正8年（1580）、織田信長の命を受けた細川父子によって一色氏は滅び、丹後は細川家の所領となる。翌年には天正検地が行われ、城下町が形づくられた。豊臣政権下では所領安堵にとどまっていたが、やがて歴史は大きく動き出す。

慶長5年（1600）、徳川方の会津征伐に細川忠興が兵2800で参戦。その隙を突き、石田三成が大坂で挙兵する。忠興の妻、キリシタンで名高いガラシャは大坂玉造邸で人質となる寸前、自害して果てたことは広く知られる悲劇である。大坂方は幽斎討伐のため、福知山城主小野木縫殿介（おのぎぬいどのすけ）を大将として、丹後へ出陣、1万5千の軍勢で田辺城を攻めた。幽斎は、本城の宮津城や支城を焼き払い、家臣ら500とともに田辺城に籠城。古今伝授の伝承者であった幽斎を惜しむ後陽成天皇から勅諚がくだり、関ヶ原の合戦のわずか3日前、50余日に及ぶ籠城戦が双方が兵を引くかたちで終結した。

関ヶ原の戦いの戦功で、細川氏は豊前小倉城へ転封となり、田辺城には信濃国飯田城から京極高知が入封、慶長検地とともに城の拡張を実施する。元和8年（1622）、高知の遺命により、丹後国は嫡男の高広が宮津藩、次男の高三（たかみつ）が田辺藩、養子の高信が峰山藩を相続する。この時、高広の宮津城を増築することとなり、田辺城の黒鉄門ほか多くの建造物が移され、城は衰退の道をたどった。

時は下り、寛文8年（1668）、三河以来の直参である牧野親成が河内国から入り、9ヶ月かけて城を改修、大手門ほか城門4基、櫓門や冠木門を建て、再びその姿を取り戻した。牧野氏の統治は幕末まで続き、明治6年（1873）、田辺城は廃城となり翌年に取り壊され、堀は内濠、外濠ともすべて埋め立てられた。

城門を模した田辺城資料館

昭和56年（1981）からの発掘調査により、城の姿が一部明らかとなり、現在は本丸・二の丸の一部が「舞鶴公園」として整備されている。本丸南には天守台、二の丸跡には幽斎ゆかりの心種園、二の丸東側の石垣が現存。本丸北側には石垣とその上に復興の二層櫓「彰古館」が立つ。また、道路に面した城門と壮大な石垣も目を引くが、これは平成の復興であり、内部は「田辺城資料館」となっている。田辺城は戦国の喧噪とともに歩み、詩歌と血煙、栄華と荒廃を経て、今なお歴史を語りかける舞台として残っている。

参考文献：『探訪ブックス5近畿の城』（小学館）、『日本城郭大系11』（新人物往来社）、田辺城資料館展示資料

田辺城の特徴と構造

丹後田辺城は、細川藤孝（幽斎）が東の伊佐津川、西の高野川にはさまれた沖積平野に築いた城で、別名を「舞鶴城（ぶかくじょう）」という。西に若狭街道、東に京街道（田辺街道）が通り、南は湿地、北は海という地勢であった。本丸、二の丸、三の丸、外曲輪を堀が囲む輪郭形の平城だった。北側に位置した三ノ丸城北門は、現在の三の丸交差点付近にあったとされ、往時は海に面していたという。城の西側には城下町が設けられ、さらに高野川の東側には京街道（田辺街道）が南北に延びていた。高野川を境に、城側は「橋東（きょうとう）」、街道側は「橋西（きょうさい）」と呼ばれ、城下の生活圏が形づくられていったのである。

天守台

天守台は東西約21メートル、南北推定約31メートルの規模があり、石垣は天正後期の古式穴太積みで細川幽斎当時のもの。天守は建築されなかったと伝わる。石垣の基底部には胴木も確認され周囲が水堀だったことが発掘調査から明らかになっている。

本丸井戸跡

本丸石垣の凹みに設けられた井戸で発掘調査で現れた。直径1.5m、深さ約0.9mの桶を転用した井戸で、内部から細川氏や京極氏が城主だった頃の瓦が見つかっている。京極氏の時に使用しなくなり埋められた。石垣の凹みを利用して井戸を造る方法は、細川氏が転封した小倉城でも確認されている、細川氏ならではの造り。

本丸石垣

本丸北側から復興櫓「彰古館」を望んだ写真。石垣より右側にはかつて本丸水堀があった。

「彰古館」の西側には水堀が一部復元されている（写真右側）。櫓台石垣はオリジナルだが、そこから右に続く石垣は平成の復興石垣。

本丸石垣の北東（鬼門切り）。

二の丸石垣

舞鶴公園の最も東側は、二の丸跡にあたり、幽斎ゆかりの心種園があり、そのさらに東側には二の丸石垣が顔を出している。

二の丸交差点近くの関西電力送配電（株）にある二の丸の石垣石。田辺城跡第17次発掘調査記念として展示された。

藩校「明倫館」

明倫小学校には、牧野氏時代に築かれた藩校「明倫館」の門がある。鉄鋲を打った冠木門で、もとは小学校の北側にあったが、昭和57年（1982）に、現在地に移転している。なお、明倫小学校はもとは明倫館の建物を引き継ぎ開校されていたらしい。

丹後田辺城の関連書籍

『田辺城の歴史』（2014舞鶴市田辺城資料館）細川氏の入国からはじまり、京極氏、牧野氏とその歴史を解説。天守台など発掘調査の内容や、略年表、歴代城主などを掲載。田辺城資料館で販売されている。

平成に復興された大手門風の城門とその石垣は西向きなので午後の撮影が適している。

田辺城の移築城門は、見海寺と瑞光寺に山門として残る。城では細川氏が本拠として構えた宮津城。または、歴史を追いかけたい人は、本能寺の変の後、明智光秀の娘・玉（ガラシャ）が幽閉されたとされる丹後半島の味土野（みどの）にある女城と男城を訪れるのも良いだろう（幽閉場所は諸説有り）。

JR西舞鶴駅前の「舞鶴グランドホテル」「舞鶴グランドシャトー」がリーズナブル。

所在地

住所：京都府舞鶴市南田辺15-22 [MAP]　県別一覧[京都府]

電話：0773-76-7211（舞鶴市田辺城資料館）

• 田辺城資料館（舞鶴市）

開館時間

田辺城（舞鶴公園）は散策自由。舞鶴市田辺城資料館（田辺城城門2階）は、開館時間9時〜17時（入館16時30分まで）月曜、祝日の翌日、年末年始休館。

アクセス

鉄道利用

JR舞鶴線、西舞鶴駅下車、徒歩10分。

マイカー利用

舞鶴道西舞鶴ICから国道27号線をJR西舞鶴方面へ。付近に有料駐車場有り。