姫路城特別公開

イの渡櫓 姫路城の特別公開の見どころ

連立式天守を持つ姫路城大天守のまわりに、小天守と呼ばれる櫓が、東小天守(艮櫓)、乾小天守(乾櫓)、西小天守(坤櫓)の三基があり、それぞれが渡櫓で連結されている。2001年、2002年、2007年、2019年、2022年、2024年の特別公開時の写真を通して、その見どころを紹介したい。

乾小天守から見るイの渡櫓
写真正面の渡櫓が「イの渡櫓」。

イの渡櫓とは

イの渡櫓は二重二階地下一階。創建時は「長や」と言われた(上写真、正面の渡櫓)。一般公開のルートは、大天守1階からイの渡櫓に入り、東小天守ロの渡櫓乾小天守ハの渡櫓とそれぞれ1階を通り天守曲輪中庭に出るようになっているが、特別公開時は、それぞれの櫓の2階を通ることになる。つまり、各櫓の2階(プラスいずれか小天守)が特別公開エリアだ。

姫路城天守群、イの渡櫓の場所

大天守の扉(一般公開)

見学時、イの渡櫓には、大天守1階北側にある扉から入る。写真はイの渡櫓1階に通じる扉で、左手の扉にはくぐり戸が設けられている。内側に鉄板張りの扉、外側(イの渡櫓側)には土戸がある二重扉だ。

姫路城大天守の扉、イの渡櫓へ通じる
扉を開いた状態で、その扉の収まりがいいようにと、大天守の横材に扉が収まる加工がなされているので、見ておこう(下写真)。小天守や渡櫓に比べると、大天守は実に細かなところまで気配りされている。

姫路城大天守扉内側の横材の加工

イの渡櫓1階(一般公開)

イの渡櫓1階から大天守の扉を見た風景。大天守の壁には防火用途で漆喰が塗られている。また、イの渡櫓との接合部を見ると、横材が、大天守に直結しておらず、大天守から独立して建っている。これは、防火対策のひとつだが、地震対策にもなるのかもしれない。要するに接合部というのは、どの城でも同じで守りたい側の壁を利用する訳で、ここでは大天守の壁を利用している。また、東小天守側にも連結しているため、構造上は独立した建物というより両建物を繋ぐ長屋だ。

イの渡櫓1階から大天守の扉を見る
また、この扉が高い場所にあるが、イの渡櫓1階と大天守1階とでは高さが異なることが分かる。これは天守台(天守曲輪の石垣)に合わせて造られたためこうなるのだが、これをどこで吸収すべきか迷ったに違いない。

イの渡櫓1階大天守扉の収納スペース
扉の上部の天井に注目してほしい。開けた扉を収納するかの如く、天井を高くしている。右手の天井はイの渡櫓2階の床面だ。これは2階の設計に影響する(後述)。

姫路城大天守の扉付け根のカーブ
扉の付け根部分をふと見てみると、繊細なカーブを描く漆喰壁が美しい。扉を閉めたところを想像してみると曲線が美しい壁面に違いない。

イの渡櫓1階内部
イの渡櫓内部の南北の長さ(桁行)は、約11メートル。天井に左右に渡している梁の下に肘木を添えて重さを支えている。正面左の階段が2階に上がる木階段で、右手奥は東小天守1階となる。階段は上部に水平引戸が付いている。一般公開時は閉じているが、特別公開時はこの階段から2階に上がる。

イの渡櫓2階(特別公開)

イの渡櫓2階
イの渡櫓2階の段差

この2階で大天守側に、まるで舞台のような大きな段差がある。初めて見るとどういった用途でこういった形にしたのか気になるが、これが先の1階にある大天守の扉が収まるスペースだ。現地ではよく「設計ミスだ」と一言で表現していることが多いが、果たして本当にミスなのか、それとも外観は美しく保ったまま、天守台の段差をここで吸収しようとしたのか、いずれにせよ、城郭建築の過渡期に築かれた姫路城、随所に外観を(優先して)構成するための創意工夫が見られるが、そのひとつと言ってよい。

姫路城台所櫓
木階段を登ってすぐ右手の鉄格子窓から、天守曲輪中庭の風景を見ておこう。ちょうど正面に台所櫓がある。この櫓は、こういったかたちで通常見ることができないので、城ファンとしてはここで1枚撮っておくと良い。しっかり台所櫓全体と中庭地面までアングルに入れるのがポイントだ。

天守曲輪中庭は、周囲よりも低く、大天守地階や周囲の小天守や渡櫓の地階が地上に出ている(城は石垣内を地階と表現する)。

台所櫓左手が少し手前に張りだしているのは、写真左側の大天守地階に連結させるためだ。天守曲輪のみでも籠城に耐え抜くため、台所櫓内部には、大天守に加え、写真右側のロの渡櫓地階と1階にそれぞれに通じる扉がある。

また、この写真から解ることがある。右手に見えるロの渡櫓一番下の屋根の軒先が、その1階2階に比べて長い。これは天守曲輪の北側石垣の幅分、1階・2階よりも内庭に出ている状態だ。ロの渡櫓はどの階も建物の(南北の)幅がほぼ同じ。その差分がここに見られ、天守台北側の幅が解るという訳だ。

今一度、まとめるとこうなる。
姫路城台所櫓周辺の解説
写真正面の高くそびえる櫓は、乾小天守。よく見てほしい。バランスがおかしな装飾がある。乾小天守の千鳥破風が左右センターから何故か少し左にずれている。まるでここから見るシーンを想定したかのように。後付けで千鳥破風を配置したか、大天守から乾小天守を見たときに最も収まりの良いように、少し左にずらして設置したのかもしれない。

(文・写真=岡 泰行)

参考文献:
『姫路市史 第14巻 別編姫路城』(姫路市)
『日本名城集成 姫路城』(小学館)

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