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岡山城の日の出

城の撮影 心得編10ヵ条

文:城郭カメラマン 岡 泰行

その城の特徴を捉えるべし

ロケーションを写し込もう

日本の城に同じかたちはない。たとえば安土城なら直線的な大手道と八角形の天主台、四国の松山城なら登り石垣と天守群、犬山城なら木曽川沿いの丘上にある天守の佇まいなど、その城の特徴(ロケーション)を知ることで撮影ポイントが明確になるぞ。

城を表現するには「代表写真」 + 「組写真」

城というのは、中世山城でも近世城郭でもその城を代表するアングルがある。最もその特徴が写り込み、美しさを兼ね備えたアングルだ。では、それ以外の写真が不要かというとそうではない。例えば城門や特徴的な石垣など、観るべきパーツ写真を併せ持つことで、その城がはじめて表現できる。要するに1枚の代表アングルに、何枚もの遺構写真を組み合わすと、その城らしさが表現できるという訳だ。この表現手法を「組写真」という。城めぐりの際は、観たものをできるだけ撮影しておくと良く、頭の中で、どの写真でその城が表現できるのかを探りながら撮影すると、より城の特徴を意識することになり面白くなるぞ。

天候を操るべし

天気には勝てない。だとすれば、行き先を変更すると良い。晴天なら、白漆喰と青空のコントラストが綺麗な白亜の城に、曇天なら、光がよくまわるので山城や北側からの撮影が適した城へと、訪れる城を少しだけ意識すると、その城の姿がより綺麗に撮影できる確率が上がる。こうなると天気予報をいつ確認するかが大切になるのだが、筆者は、ぶれが少ない前日の夜の天気予報を見て、翌日の行き先を決めている。

過去に、とあるメディアの人に、この種の原稿を依頼されたことがある。その時、「天候によって行き先を変えるのはあり得ない」と言われ、原稿の修正依頼(ほぼ命令)が来たことがある。筆者も広告宣伝業界で17年、務めていた経験があるので理解できないでもないが、誌面上、他に表現したい編集意図があった訳でもないので、編集者の固定観念で判断された感が否めない。

時間は有限。歴史旅というのはマルチタスクで、Photo派でなくとも、常に行く先候補をいくつか持っていて、その中からチョイスしていくものだ。ツアーや予約で旅行を組んだケースは別として。行った場所は自分の記念にもなるから、叶うなら綺麗な写真を残しておきたい。

撮影時間を操るべし

もしも城をスタジオ撮影できるならライトを当てて綺麗に撮れるが、野外撮影となるとそうはいかない。太陽の場所をチェックして、逆光にならないように気をつけよう。とはいえ、逆光で撮ることでシルエットが映える城もあるので、あくまでどういう風景を観たいのかでご判断を。要するに、日中、常に太陽がどこにあるかを意識するだけで、より確実な絵を撮ることができる。朝なら東向きの櫓を、夕方なら西側の城門をといった具合にその時間に適したポイントを攻めていくと、表情豊かな城の組写真を撮ることができる。

余談ながら、筆者は方位を知るために(太陽の位置を知るために)、20年前は方位磁針を持ち歩いていた。城ファンで方位磁石を持ち歩いていると、山城派と思われるのだが実はフォト派だと言うとよく驚かれた。15年ほど前からは方位を示す登山用の腕時計を常にしている。今ならスマートフォンのアプリで方位や太陽の軌道を容易に知ることができるので活用するのも良いかも。

とにかく城内を歩くべし

城内をくまなく歩いて撮影ポイントを見つけよう。その城の違った顔を発見したり、いろいろな風景に出会える。大切なことは、いい風景に出会ったときにしっかり足を止めて撮影すること。少しコツがある。自分も歩いて進んでいるから「いい風景だ!」と思ったら、そのポイントから微妙に行きすぎていることがある。2歩ほど下がって感動したアングルを確認しながら撮影すると良いことが多い。

そしてなによりも、歩くことでその城の規模を体感できる。また、荷物の量にも気を配っておくと良い。筆者の場合、2万歩も歩けば疲れが出だす。これはその日の装備にもよる。軽いコンパクトデジカメ1本で山城攻めなどでは、さして疲れは来ないが、交換レンズ3本に一眼レフといった重量級の場合は、そもそも行く前に、城に合わせてレンズをチョイスしたり、三脚の利用シーンの有無も調べておくと、軽量化に繋がり、より多くの曲輪に何度も足を運ぶチャンスに繋がる。カメラ雑誌で紹介されているような数十本のレンズを持ち歩くことは城では非現実的でそういった人を今まで一度たりとも見たことがない。装備はたとえ数gでも減らしていくことで、思わぬ風景に出会える機会が増えていく。

また、筆者の場合は短時間にアングルを決めるノウハウがあるので、三脚をじっくり据えて撮影するというシーンはそうそう無く、常に動いている。取材に同行した人は、筆者がそそくさと撮影するのを、不思議そうな顔で見つめていることが多い。どうやら外見はいい加減に撮っているようにしか見えないらしい。それくらい速い。ただし、人待ちはするので(人が居なくなるまで粘る)、時間はそこで使う。

ファインダーでその風景を確認すべし

ファインダー(液晶画面)を見て「あれ?実際の風景と違うな」と思ったら、それは画面の中に感動を与えた要素が入らなかったということ。ファインダーを覗きながら上下左右に動かして自分がどこに感動したのかチェックしてみよう。

高いところから観るべし

高いところから城を観る理由は、いわば鳥瞰図を得たいから。城の規模を把握したり、周囲のロケーション含め、全体像を把握しやすいためだ。ここでしっかり覚えておきたいのは、城本来の美しさとは、人間の目の高さで観て美しいように創られていることだ。また、街道に向いて造られている城や天守などは、仰ぎ見るように造られているので、本来見おろすものではないということを忘れてはいけない。さて、高いところから観るには、近世城郭では、自治体ビルが隣接していることが多く、展望フロアもあるかもしれないので、それらを狙うと良い。また、ホテルなどの高層建築物が隣接していることがあるから、迷わずスカイレストランなど最上階で風景とともにお食事も、大阪城姫路城広島城高知城駿府城など、城の規模や形が分かる風景を見ることができて面白い。

春夏秋冬を意識すべし

山城派の人は、遺構メイン。ということは落葉しているほうが土塁の起伏などを撮影しやすいから秋から冬がベストシーズンだ。また、ゴールデンウィーク手前あたりまで、蜘蛛の巣が少ないので、山に入りやすい。

近世の城派の人は、春は桜、夏は緑、秋は紅葉で綺麗な城へと心がけると色彩豊かな写真を撮ることができる。たとえば、より緑が綺麗な季節は新緑の5月、より深い青空は夏、空気の澄んだ季節は秋といった具合だ。逆に、自分の嫌いな色合いを把握しておいても良い。たとえば、3月頃は山々が花粉で少し黄色に変色するからこの時期は絵になりにくいとか、夏の日中は太陽が真上にあるので、壁面が暗い影になり好みの絵になりにくいとか。

こういったことを意識することで、自分が撮りたい絵がどういったものなのかが分かり、また、季節感や色彩豊かな写真に繋がってゆく。

山城では木にしがみつくべし

とにかく暗くて手ぶれしやすい山の中。ここはと思ったところは、なるべく太い木にカメラをホールド、ISO感度を高めに設定して撮影しよう。杖がわりの一脚を使うのも手だ。セルフタイマー撮影でさらに手ぶれを防ぐこともできるぞ。近年、デジカメの技術が向上し、手ぶれせずに撮影できるようになりつつあるが、山城での基本姿勢ということで。

余談ながら、山城は写真に撮ると凹凸が表現できず、のっぺりとした写真になることがある。よく「どうすれば地面の起伏を撮影できますか?」と質問されるのだが、これを完全に回避することはできない。

手としては、人間がその構造物が立体であると認識する手法を逆手にとるしかない。例えば、土塁のラインで遠近法を使ったり、木々が直線に並んでいるところを見付けて構図上、遠近法を利用したり、立体が認識しやすくなる光と影が明瞭なポジションから撮影したりといった具合だ。また、冬なら、太陽が斜めから指すときに、木々の影がその凹凸に沿って地面に落ちるときがあるので、その時間帯を狙うといった具合だ。これは月面の撮影でも使われているテクニックだ。

近年、山城ブームとも言われている。これまで暗くて撮影できなかった山城が、技術が進化したカメラで手軽に撮影できるようになり、その絵がインターネットで、露出しているからだ。言い換えれば、これまで行った者だけが見られる山城遺構が数多くあったが、行かずとも事前に多くの山城の遺構を見られるようになった。これは城を選ぶ楽しさに繋がり、また山城に足を運ぶ動機になっているのではないかと思う。

案内板を見つけたらすぐ撮るべし

20年前にデジカメが出だした頃から、城めぐりのスタイルが変わった。お城めぐりは日が昇っている間が勝負。縄張図や説明板、細かい説明はさっと写真を撮っておいて、後でじっくり読むのがいい。デジカメで簡単に記録できるというのは良い。できるだけ正面から撮っておこう。ただ、解説板にも設置年代があって、その昔はこう解説されていたが、今は別の解釈だとか、アップデートがかかっていないこともあるので、あくまでひとつの参考資料ということで。

(文・写真=城郭カメラマン 岡 泰行)

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